何でも食べてやろう

食に貪欲な旅日記

セカンドストリートで買い取られなかったモノ・おかえりマティス

引っ越しの準備が進むにつれ、部屋の中がいよいよパンダの段ボール箱で埋め尽くされてきた。

あら、このパンダちゃんのつぶらなおめめ、白い点が目、ぐるりと囲む黒い部分を目のクマだと思って見てみると、だいぶ疲れてやつれ果てた表情に見えるじゃない。今の私ってこんな顔してるかも。

なんてたわけたことを考えながらチンタラ作業している間に、夫がさっさとセカンドストリートへ先日仕分けた服飾類を持って行ってくれた。

もはや足の踏み場もない部屋からいくつかの大きな荷物が消え、心底ホッとした。

 

ところが夫が出て行ってしばらくしてから、不要と思って出したはずの一枚がなぜだか急に惜しく思えてきたのである。

それは、アンリ・マティスのブルーヌードが全面にドーンとプリントされたスウェット。

去年男の子のようなスタイリングに憧れ、だぶだぶのオーバーサイズな物を買ったのだ。はじめ気に入って着ていたが、どうやら私はオーバーサイズの服を着ると力士のようにいかつく膨れて見える体格だと気付き、以来外に着ていくのが恥ずかしくなってしまった。

大きい分それなりに嵩張るし、この機会にええいと手放してしまったが、デザインは個性的で大変に気に入っていたので部屋着にでもすれば良かったな。

 

そうこうしている内に夫が疲れた様子で帰ってきて、「大変な思いをして持って行った割には大した金にはならなかったよ。買い取って貰えなかった物もある。」と言いソファーの上に伸びてしまった。

我が家に車はない。徒歩であれだけの重たい荷物を・・・本当に心からお疲れ様です。

「買い取って貰えなかった物もある」という部分が引っ掛かりながらも、その日は夜遅くまで作業を続け、そのまま眠りこけてしまった。

 

翌日、玄関に無造作に置かれたセカンドストリートから持って帰ってきたと思しき大袋を覗いてみると、買い取って貰えなかった服飾類が底にいくつか入っていた。

なんとその中にあのマティスのスウェットがあるではないか。おかえりマティス

ベイクルーズだかどこかのオシャレブランドで去年購入した物で、そんなに着古した感じも無いこの服が何故買い取られなかったのだろう。900円くらいの値札を下げて店に並べておけば誰かが買いそうなものだけれど。1円の値もつかず舞い戻ってきたのが不思議だ。

何はともあれ、唯一手放したのが惜しいと思った物が戻ってきたのは嬉しいし、なんだか縁を感じる。部屋着としてクタクタになるまで着倒そうと誓う。

ちなみに他の戻ってきた服は、去年購入して一度しか着ていない無印良品のボートネックカットソー、ミック・ジャガーの顔のイラストが編み込まれたニット、本革のライダースジャケット等。

何度も着ており着用感のあるGAPのニット、元々安価だったユニクロの服は買い取られたようで驚いた。ちっとも基準がわからない。戻ってきた服の方がよほど欲しがる人が居そうではないか。
自分のセンスにいよいよ自信が無くなってきた。

 

 

 

 

 

 

引っ越しは大変だ・断捨離

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自分ん家に帰るように、物がひとりでに箱に入ってくれたら楽なのにね。


引っ越しは大変だ。

それは主に私の所有する大量の本と服が原因である。

 

本は不思議だ。たまにふらっと立ち寄ったブックオフで、選りすぐった本だけを1、2冊買って帰る。ふと気付けば魔法のように増えており、本棚から溢れんばかりでいる。

服はもっと不思議だ。リサイクルショップで格安なのに質が良くデザインもユニークなものを見つけると、ついつい財布の紐が緩んでしまう。服って一枚一枚はペラペラなのに、すぐ山のようになるのは何故なのだ。

 

これら全てを段ボール箱に詰めて持って行くことは不可能。まずは要る物と処分する物を分ける作業から始めることにした。

これはもう要らないなと思ったら、大きな紙袋や段ボール箱に適当にポンポン入れていき、あまりにもくたびれているのや汚れているのはその場で処分する。

全部終わったら、本はもったいない本舗の宅配買取の手配をし、段ボール箱ごと引き取ってもらう。服飾類はセカンドストリートに持って行き査定してもらう。

これにてハイ、断捨離終了!

 

とはならず、卑しく欲深い自分が出てきてそっと囁く。「1000円以上で売れそうな物をメルカリに出品するのじゃ。」

もう時間は無いのに自分で手間を増やすことなんかして、つくづく馬鹿としか言いようがない。

結果はというと、残念ながら一番減らしたかったやたらと嵩張るコートは、時期を外していてさっぱり売れなかった。しかし春物の服や分厚い本数冊、額入りのタイル等が売れて、万々歳。

かくしてささやかな荷物の減量と小銭稼ぎに成功したのである。

 

 

 

夫の、東京への転勤が決まった日

 

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※私の中のイメージの大都市・魔窟TOKYO

ある日のこと、唐突に夫から「東京に転勤することになった」とLINEが来た。

東京、トーキョー、TOKYO・・・・・・


待てよ。夫が東京に行くということは、当然妻である私も共にここ九州から離れないといけない訳だ。今現在子供も仕事も持たぬ私には、何のしがらみも無い。

およそ2年住み、先日更新料を支払ったばかりのマイスイートホームともお別れか。

窓の前にぴったりと建物が隣接していて日当たりがほぼゼロな点を除けば、とても快適な家であった。日中薄暗く、夏場でもひんやりとした我が家。まるでヨーロッパの小さな修道院か、厳かな儀式が行われる寺院の一室のよう、なんて妄想を膨らませたこともあったな。

 

夫が今の職場で摩耗していて、ずっと環境を変えたいと切に願っていたのを知っているから、転勤それ自体は良いことだと思った。

ただ、一人暮らしの母の存在が気がかりだ。今までもそんなにしょっちゅう会っていた訳ではなかったが、近くに住んでいるというだけで何となく安心感があった。万が一何かあればすぐに駆け付ける事もできる。これからはもう難しくなるのだ。

そして友達のことが浮かんだ。自分から連絡するのが苦手なタチで、学生を卒業してから交友関係は狭くなる一方だ。そんな私と変わらず仲良くしてくれている、たった二人の大切な友達。母同様しょっちゅう会っていた訳ではないが、やっぱり寂しいな。

 あっ、そもそも私、本当に東京でやっていけるのだろうか。あんなに人だらけの都会で。今住む地方都市の人の多さでも、自転車や人とぶつからぬよう気を張って歩くと、酷く疲れ頭がクラクラしてくるというのに。

小さな不安が次々に芽を出し、ムクムクと成長してゆく。

嗚呼、大都会とは正反対の、どこか遠くの南の島へ行きたい。田中一村の絵の風景の中に住みたい。などと、脳の一部が勝手に現実逃避しだす始末。

 

何はともあれ、あと一月とちょっとで新たな旅へ出ないといけないのだ。実は悠長にしている時間はない。

整理整頓・片付けが大の苦手な私には、まず引っ越し作業が強敵であり、大きな大きなハードルなのである。